7日目



ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ・・
うーん・・・なんぼなんでもダメ・・おきられない・・いまなんじ?まだよじはん?・・よじはん!?
えらいこっちゃ!もう4時半やん!!

あわてて飛び起き、サッと着替えて、昨夜充電しておいたipad、iphone、それに電池をカメラに付け替え、鞄に詰め込む。
気持ちばかりのチップをテーブルに置き、フロントへ。

『こいつは毎朝毎朝、こんなはよからどこいっとんねん?』
怪訝な表情でこちらを見つめるフロントのにーちゃんに鍵を預け、
「たぶん、今日中には、帰ってくるわ(汗)」とだけ伝えてホテルを出る。もちろん、外はまだ真っ暗。

今日の目的地は南仏のポン・デュ・ガールなので、TGV地中海線が発着するリヨン駅(Gare de Lyon)に向かうことになるのだが、
いかんせん、ここ(カンパニール)からだと交通の便が悪い。地下鉄でいくにしても13号線→6号線→14号線と3度乗り継がなければならないし、
そもそも、こんな時間に地下鉄が動いているかすら、わからない。かといって、歩いて行ける距離でもないので、さてさて・・どないしょかなあ・・。。

ちょうどそのとき、タイミング良く、行灯の点いたタクシーがやってきた。
手を大きく振って、タクシーを止める。
タクシーはまさかこんな場所と時間に客がいるとは思っていなかったのか、少し通りすぎた後、急ブレーキして後戻りしてきた。

わたし 「おっちゃん、わし、リヨン駅に行きたいんやけど、かまへんかな?」
おっちゃん 「おお!乗ってけ乗ってけ!」

こんなあっさりタクシーに乗れるなんてついてるなあ♪と最初は思っていたのだが、これがとんでもないタクシーだった。
どう考えても、乗るなり逆方向に突き進んでいる。わたしは筋金入りの方向音痴なのだが、こういうときだけは、すぐにわかる。
不審に思ったので、おっさんに聞いてみた。

わたし 「おっちゃん、リヨン駅に向かってくれてるやんなあ?」
おっちゃん 「おう、むことるよ」

それでも車は南へ南へ。
あまりに不審に思ったので、iphoneのGPS機能を起動させる。明らかに逆方向に向かっている。しかし南には環状線(幹線道路)が走っていた。
最終的にはその環状線を通って、リヨン駅に向かったのだが、どう考えても、ぼったくり経路だ。
結局、20ユーロほどボラれてしまった。わたしもタクシーの運転手。降りしなに一言いわずにはおれなかった。

わたし 「おっさん、日本人やおもて、なめたらあかんで。どう見ても遠回りしとうやんけ。」
おっちゃん 「なにを根拠にぬかしとんねん!わしゃ、遠回りなんかしとらんぞ!」
わたし 「わし、ずっとiphoneのGPS機能でおっさんが走った経路辿っとってん。ほれ、これ見てみい!
ここをこういってこういってetc・・これがおっさんの辿った経路や。こんなけったいな行き方あるかい!」
おっちゃん 「もうええ!チップいらんから、はよ降りろ!」
わたし 「もうええやあるかい!チップなんか払うか!なめたらあかんぞ!」

旅の体験談などで、海外のタクシーにボラれたという話はよく聞いていたが、わたしもその典型例のような被害に遭ってしまった。
同業者のおっさんと不毛な言い争いをして、めちゃめちゃ気分を悪くしてリヨン駅に入る。時間はまだ5時過ぎで、ほとんど人がいなかった。



わたしが乗りたいのは6時15分発のマルセイユ行きTGV(6101)なので、まだ発車時刻まで1時間近くある。
切符を刻印機に入れ、さあ、列車を撮るぞ〜っと意気込んだそのとき・・

”ぴーきゅるきゅるきゅる・・きゅるきゅるぴー” ←おなかのおと

ぽ・・ぽんぽんトラブルだ・・(>_<)

ぽんぽんトラブルとは、お腹のトラブル、つまり下痢ピーのことだ。
海外では、とかくこのぽんぽんトラブルになりやすい。しかも今回のは、急転直下型のぽんぽんトラブルだ。
処置法はただひとつ。早急にトイレに駆け込むこと。それしかない。
う・うう・・ト・・トイレ・・トイレは・・ど・・どこだ?
とにかく、一刻も早く駆け込みたいのだが、肝心のトイレの場所がわからない。
う・・うう・・おねがい・・かみさま・・といれを空から降臨させて・・(>_<) 
もう・・だめ・・もれる・・けどほんとにもれたら、い・・いっしょうのふかく・・そ。。それだけは・・と蹲らせた顔を上げたそのとき、
ホームに停車しているTGVに目がとまった。しめた!TGVにはトイレがついているはず!
あわてて車内に駆け込む。案の定、トイレがあった。
ああ、まさかTGVのトイレに、お世話になろうとは・・すこし感激。。
・・と思ったのもつかの間、トイレの扉が開かない(>_<)
トイレのドアをガタガタ開けようとしていると、駅員がわたしのところにやってきた。

駅員のおっさん 「なにしてんねん。おまえ。」
わたし 「ちがうねん。わし、ぽんぽんトラブルで、トイレにゆきとうてしゃあないねん(>_<) なんで開かへんの?この扉。」
駅員のおっさん 「まだ発車まで時間あるし、ロックがかかっとるんやろ。となりのホームのTGVやったら開いてるやろけど・・。」
わたし 「おっちゃんありがとう!ほな行ってくる!」
駅員のおっさん 「おいまてまて!」

駅員の制止を振り切り、となりのホームのTGVに駆け込む。トイレのドアは開いていた。おっちゃん、ありがとさん!
目の前に広がる薔薇色の世界・・安堵の表情を浮かべトイレから出ると、駅員二人が待ち構えていた。

わたし 「ありがとう。おっちゃん。あんた命の恩人やわ。」
駅員のおっさん 「ちょっとあんた、切符みせてんか」
わたし 「はい。わし、なんもあやしいもんやないねんよ。ほら、パスポートもあるで。」
駅員のおっさん 「うーん。本物やな。ただのへんなやつかいな。まあええわ。これからは、勝手な行動とったらあかんで」
わたし 「はいはい。ありがとさん」

誤解が解けたので、安心して鉄道を撮りまくる・・つもりだったのだが、
まださっきの駅員たちが訝しそうにこちらを眺めていたので、数枚だけ撮ってやめておいた。






↑あやしまれながらも撮った、TGV(^_^;)



昨日タリスでベルギーに向かったときは、平日にも関わらず、乗客のほとんどが観光客のように見受けられたが、
この日のマルセイユ行きTGVに乗り込んでくる乗客は、ほとんどが上下をビシッとスーツで決めたビジネスマンだった。
朝6時15分発の列車にも関わらず、座席はだいたい埋まっている。
わたしの前に座る乗客、後ろに座る乗客、通路を挟んで隣に座る乗客、例外なく、わたしを怪訝な表情で眺め、人によっては睨みつけてから席に着く。
さすがに睨まれたら気分が悪いので、「なんスか?」という感じで視線を投げかけるのだが、そうすると逆に無視される。(-_-)。

そうして乗り込んできたビジネスマンは、これまたほぼ例外なく、席に着くなりノートパソコンを開き、なにやらカタカタと打ち込みだす。
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ・・・・車内のあらゆる方向から、キーボードを叩く音が聞こえてくる。ネットサーフィンしている音ではない。
わたしにとっては、屈強そうなおっさんに睨まれるよりも、このカタカタ音を聴いているほうがよっぽど威圧感があった。
「お・・おいら、とんでもなく場違いなところにきてる・・(>_<)フランスのビジネスマン、こんなはよからTGVに乗るなり仕事って・・めっちゃ勤勉やん(>_<)」

まあいい・・ひとはひと、わたしはわたしだ・・
『撮り溜めた写真を少しipadにコピーしよ・・万一データが壊れたらシャレにならんしな・・。』
座席の右下についているコンセントに変圧器付アダプターを挿入、USBケーブルを使ってipadに電源を供給し、
カメラのCFに保存してある画像データをipadに移し替える。
ipadがいいのは記録媒体がハードディスクではなく、フラッシュドライブな点だ。
CFからフラッシュドライブへのデータ移行なら、少々揺れている車内でも問題なく行える。ノートパソコンのHDDならこうはいかない。



ipadに映るCFのプレビュー画面を確認し、モンサンミッシェルからシャルトル、ロンシャン競馬場での凱旋門賞、ベルギー等々、
百数十枚をとりあえずバックアップ。かなり時間がかかる。TGVもいつのまにか動き出した。
ずっと作業をしていると・・さっき、わたしを睨んで席に着いた隣のいかついおっさんが、わたしに声をかけてきた。

おっさん 「その写真、おまえが撮ったんけ?」
わたし 「そや。」
おっさん 「ちょっとみせてーな。」
わたし 「ええよ。」

データの移行中ではあったが、まあ、いつでもできるので一旦コピーをcanselし、ipadを渡した。
せっかく写真を見てくれるのなら、京都の素晴らしさを伝えたかったので、アルバムに格納してある”京都の写真”のフォルダーを見せる。

おっさん 「○×◎▽□×○◎○△□・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
わたし 「ごめんおっちゃん、わし、英語、少ししかわからんのよ・・(^^;)」
おっさん 「おまえこれ、わんだふるやわ!」
わたし 「へ?」
おっさん 「わんだふるやって、ゆってんねん!」
わたし 「あ・・ありがとさん(^^;)」

写真を褒めてくれたのでわたしも気分をよくして、日本のこと、京都のこと、鉄道のことなんかをカタコトで話す。
おっちゃんは、すごく聞き上手な人で、わたしのわけのわからないカタコトの言葉を、過剰な反応とジェスチャーを交えて聞いてくれた。すごく嬉しかった。
こちらも、おっちゃんの仕事と、パソコンになにを打ち込んでるの?と聞いては見たが、案の定、さっぱり理解できなかった(>_<)



パリを出てから2時間と40分。8時56分に南仏のアヴィニョンTGV駅に到着。
列車から降りてすぐに感じることのできる、いままで味わったことのないスカッとした感じ。ほどよい暖かさ、心地よすぎる風・・
昨日よりも今日の方が、違う国に来たような気がする・・ほんとは違うんだけど(^^;)



駅正面から出て、少し左に歩いたところに、バスとタクシーの乗り場があった。
路線図を見ると、ポンデュガールに行くには、いったんアヴィニョンの市街地に出て、また違うバスに乗り換えなければならない。
Ipadの地図で確認しても、ここからポンデュガールまでは、少なく見積もっても40qはある。
タクシーに乗ったらいくらとられるか想像もつかないので、とりあえず路線バスに乗り込んだ。
まだ出発時間まで少しあったので、バスの車内で運転手さんに話しかけてみる。

わたし 「おっちゃん、わしな、いまからポンデュガールいきたいんやけどな、もしタクシー乗ったら、いくらくらいするん?」
バスの運転手 「ポンデュガールやったら、150ユーロくらいちゃうか?」
わたし 「150ユーロ!?!?くわばらくわばら・・とてもやないけど乗れんなあ(^^;)早く行きたいのは、やまやまなんやけどなあ。」
バスの運転手 「わし、交渉してきたろか?」
わたし 「へ?」
バスの運転手 「安うしてもらうように、交渉してきたるわ」
わたし 「え?ちょっとまっ・・・」

バスの運転手は勝手にぴゅーっと車を降りて、隣のレーンに止まっているタクシーの運転手と話しだした。
わたしは、狐につままれたような表情で、その会話の様子をバスの中から眺めているだけ・・
すぐにおっちゃんは帰ってきた。勝ち誇ったような顔をしている。

バスの運転手 「70ユーロで話つけたったで。」
わたし 「高いわ(^^;) 50ユーロくらいやったら、考えんでもないけど・・」
バスの運転手 「50ユーロは無茶やぞ。けど、よし、聞いてきたろ!」
わたし 「え・・ちょっとまっ・・

またまたバスの運転手がぴゅーっと車を降りて、タクシーの運転手のところにいき、二人で話し出した。
そして、大きくマルのジェスチャーをこちらに見せてくれた。

わし 「ほんまに50ユーロで行ってくれるん?わし同業者やし、ようわかるけど、この距離で50EURはキツいんちゃう?」
タクシーの運転手 「ええよ。長距離やし、いったるわ。」
わし 「お・・おおきに・・」



ワンボックスカーのタクシーに乗り込み、ポンデュガールに向かう。

わたし 「おっちゃん、ありがとうね」
タクシーの運転手 「かまへんよ。ぼん、どこからきてん?」
わたし 「日本や。あ、そうそう、おっちゃん子どもおる?」
タクシー運転手 「おるよ?なんで?」
わたし 「おっちゃん、これあげるわ(^^)日本のアニメのドラゴンボールのカード」
タクシー運転手 「おおおおおおおおおお!!これは、めっちゃ喜びよるわ!!ありがとう、ありがとう!!」

フランスやスイスなどのヨーロッパ旅行にいく直前、私は必ずヨドバシカメラのおもちゃ屋のコーナーで日本アニメのカードを数セット買っていくことにしている。
カードは10枚入りで100円からあるのだが、これをヨーロッパの子どもたちにあげると、めっちゃくちゃ喜ばれるのだ。
ヨーロッパにおける日本のアニメの評価は、我々が想像している以上に高い。わずか100円のカードがこちらでは、メイドインジャパンの超レアカードなのである。

おっちゃんは、ほんとうに50ユーロポッキリでポンデュガールの入口まで行ってくれた。
午前中の順光の時間帯にポンデュガールを撮影したかったので、この予定外の時間短縮は、ほんとうにありがたかった。
おっちゃんに何度もお礼を言って、また会いましょうと笑顔で別れる。

そして、タクシーを降車した駐車場から案内板に沿って山道を10分ほど歩くと、突如、”ポンデュガール”が視界のまえに現れた。





す・・すげー・・ (ぽかーん・・)

バスの車窓越しに、だんだん大きく視界に入ってくるモンサンミッシェルと違い、
こちらは”角を曲がれば、急にとんでもないもんが現れた”という感覚。
そういう意味で、インパクトという点では、モンサンミッシェルよりもはるかに大きかった。
はじめて見た建造物のはずなのに、デジャヴ(既視感)に襲われる・・
そうだ・・あのときの感覚だ・・

忘れられない思い出がある。
まだ小学校に入ってまもないころ、正月に母の実家の宮津へ里帰りしたとき、
こっそり実家を抜け出して、山手にある滝上公園にひとりで行った。滝上公園の脇には小川が流れていた。
「この川はどこから来てるんやろう?」ひょんなことに興味をもったわたしは、川上のほうに歩き出した。
山道をひとりで、てくてくてくてく上がっていく。ちょっぴりこわいけど、なんだかゾクゾクする。道はどこまでも続くように感じた。
グランドをこえ、浄水場をこえ、さらにしばらく進むと、突如視界のまえに、廃墟のようなダムが現れた。
だれも近寄らないような山中の薄暗い場所に佇むダムはものすごく不気味で、幼ないわたしにとって、それはそれは、ものすごいインパクトだった。
ダムというものなど知る由もないわたしは、目の前の超巨大な壁をみて、この世の果てに辿りついたと確信し、家族にその偉業を伝えるべく、とんで帰った。
わたしを探しまくっていた両親にはめちゃくちゃ叱られたが、それよりも世紀の大発見をしたことを伝えたくてしょうがなくて、
懸命になって身振り手振りで、じいちゃんやばあちゃんに、”この世の果て”にたどり着いた偉業を話していたのをおもいだす。
・・・だいぶ話が脱線したが、あのときのダムをみたときの衝撃・・
それを、ポン・デュ・ガールを見た瞬間、ハッと思い出したのだ。

いったいだれが、なんのために・・

ポン・デュ・ガール(ガルドン川に架かる橋という意)は紀元前19年頃に建てられたといわれている、水道橋である。
この巨大な水道橋は、アウグストゥス帝の腹心、アグリッパの命令で架けられたと言われている。(wikipedia参照)
高さは実に49m、これはあの餘部鉄橋よりもさらに8mも高いものだ。(鉄道ファンしかわからない例えですんません)
どのようにして、紀元前19年という時代に、このような水道橋が造れたのか想像もつかないが、
19世紀にナポレオン3世の命令で改修したとはいえ、今現在でも(ほぼ)当時のまま残っているのは奇跡としか言いようがない。





土手をまわって川の岸辺まで降りると、橋脚が水面に映し出されていた。
風が吹く度に水面の橋は消えるのだが、少し待てば、またぼんやりと浮かび上がる。
これは撮るしかない!しかも川の中に入って撮りたい!思い立ったが早いか、すぐに靴を脱ぎ裸足になって川に入る。



つ・・つめたっ!(>_<)
水温はおもいのほか低かった。
暖かかったから油断してたけど、もう10月だもんなあ・・
一度浅瀬に引き返し、徐々に足を慣らせて、再度川の真ん中に近づく。





真ん中あたりについたのはいいが、自ら起こした波が水面の鏡を濁らせる(>_<)
しばらくじっとして、波と風が収まるのを待つが、動いているときよりも、足が冷たい。
ようやく水面に橋が見えかかったところでパシャッと1枚。
けど逆光気味だし、イマイチだなあ・・。ということで、順光の橋の向こう側に行ってみることに。



近づくごとに威圧感が増す、圧倒的存在のポン・デュ・ガール。
これを紀元前の人が作ったって言うのが、何度説明を聞かされても信じられない。昔の人ってなんて、凄いんだ・・





おおっ!こっちのほうが、断然キレイやん!
橋の北側は川がゆるやかにカーブしていて、順光で照らされた橋が穏やかな水面にクッキリ浮かび上がっていた。
南側ばかりに人が集まっていたので気づくのが遅かったが、北側こそが穴場だった。写真を撮影しているひとも全くいない。
岩の隙間から先に機材を慎重におろし、急な斜面を這うようにして岸辺におりる。



それにしても、なんてきれいな川なんや・・。
岸辺の岩に腰掛けながら、コンデジのパノラマモードでガルドン川全体を写す。



まわりに誰もいないので、ゆっくり時間をかけて三脚を立てる場所を選び、カメラとレリーズをセットする。
空気中の粒子が少ないのか、晴天時の南仏の空は、まさに蒼穹という表現がピッタリで、写真を撮るには過剰なほど青々としている。
透明度が高く、湖と間違えそうなほど流れが緩やかな川面には、反転したポンデュガールが色濃く映し出され、
シャッターを押す度、空気を切り裂くような音が、岩壁に反射して、あたりに響き渡る。



露出とアングル(構図)を微妙に変えながら、RAW・JPEG併せて100枚近く撮影し、
大満足♪と悦に浸っていたそのとき、ズボンのポケットがいきなり震えだした。
なんじゃ?と思って手で押さえると、携帯が鳴っている。
一体誰やねん?とおもって液晶をみると、おたあさま(※母を敬っていう語。宮中・公家などの家庭で用いる)からだった。

わたし 「なんや?」
おたあさま 「あんたいま、どこにいんの?」
わたし 「ちきゅう」
おたあさま 「だから、ちきゅうのどこにいるのかってきいてんの!」
わたし 「まうら」
おたあさま 「しょうもないことゆわんとき!わかってる?こんなあほなことゆうてる間にも、おそろしい通話料がかかってんねんで!」
わたし 「そんなこときいて、どうすんねん?わし、いま、南仏のポンデュガールにおんねん。パラダイスみたいなとこや。当分の間、住むかもしれん。」
おたあさま 「とりあえず、ちゃんと生きてるんやね?」
わたし 「そや。なげかわしいことに、ちゃんと生きとる。」
おたあさま 「しょうもないことゆわんとき!ほな切るで!(ガチャッ!)」

・・・。なんの用事で電話をかけてきたのかわからなかったが、とりあえず無事であることを伝えたので、
『まーえっか』とおもっていたら、またすぐに携帯が鳴り出した。今度はおもうさま(※父を敬っていう語。宮中・公家などの家庭で用いる)からだ。

おもうさま 「とおる!凱旋門賞はどやった!?おまえ、儲けたんか!?」
わたし 「ああ。家建つくらい儲けたぞ。」
おもうさま 「なに!?おまえ!買っとったんか!?ええか!?使わんと持って帰れよ!ほんで、わしによこせよ! ●△×〆¢☆¥$!! (ガチャッ!)」

背後に聞こえる”おたあさまの怒声”とともに通話は切れた。
『なんやねん・・一体』と呆気にとられながら、ふと携帯液晶の時計を見ると、もう13時をまわっていた。
日が暮れるまでずっとここにいたいという気持ちもあったが、せっかく南仏まで来たんだからアヴィニョンの旧市街もまわろかいなということで、
結局わずか3時間ほどでポンデュガールをあとにすることにした。



帰り際に橋の上からガルドン川を撮影。
帰りたくないなあ・・やっぱりもう少しいようかなあ・・。





ポンデュガールをあとにして、アヴィニョン市街地に向かうと決めたのはいいけど、はて、どうやって行ったらええんやろ?
とりあえず、タクシーを降りた場所あたりに戻る。駐車場の北側に土産物屋が並んでいた。ラッキー♪あそこで聞いてみよう。
なんか買った方がいいかな・・。Tシャツと日本語パンフ(小冊子)を購入し、おばちゃんに聞いてみる。

わたし 「おばちゃん、わし、アヴィニョンの市街地行きたいねんけど、こっからバスとかあるんかな?」
おばちゃん 「あるけど、めったに来んで。そこのついたてにタイムテーブル(時刻表)おいてあるし、もっていきーな。」
わたし 「お・・おおきに」

ついたてには同じ内容と思われるタイムテーブルが並んでいた。よく見ると表紙の国旗のマークが違う。
国旗マークは、フランス、イギリス、ドイツ、スペインの4種類があった。わずかに理解できるであろうイギリスマークのものを抜く。



えっと・・この真ん中のpont du gardって書かれてるとこがここやんな・・えっと・・アヴィニョンゆきは・・っと・・
・・えっ!? 13時22分の次は、18:45分まであらへんやん!( ̄□ ̄!)
慌てて時計を見る。13時をまわったとこだ。え・・えらいこっちゃ!バス停に早よいかな!・・って、バス停ってどこにあんねん?

わたし 「おばちゃん、ア・・アヴィニョンゆきのバス停ってどこにあんの?」
おばちゃん 「奥の駐車場をこえて、まっすぐ車道を降りたらロータリーがあるわ。そこを左にまがったとこにあるで」
わたし 「お・・おおきに!」

早く気づいてラッキーだった。ニーム方面行きのバスは1時間に一本くらいは出ていたので、いざとなったらニーム経由で戻れなくもないのだが、それだと超遠回りになってしまう。
時間は有効に活用したいので、なるべく直通便でアヴィニョンに向かいたい。
広い駐車場の敷地内を小走りで駆ける。行き止まりだ。どこにも出口がみつからない。慌てふためいてキョロキョロする。
手前の小道から車が入ってきた。出口はあそこか?猛ダッシュで車が出てきた方向に向かう。
どうやらこちらで間違いなさそうだが、駐車場から本線への直線(坂の下り道)が異様に長く感じる。間に合うやろか・・(>_<)
時間を確認したいが、腕時計をしておらず、iphoneを取り出してまで時間を確認する余裕もない。
機材の重みで肩からズレ落ちるカメラバッグを何度も戻しながら、小走りで直線道路を抜けた。
おばちゃんの言ったとおり、その先はロータリーになっていて、左側にバスストップの立て札があった。
ここでようやくiphoneを取り出し、時間を確認する。まだ少し余裕があった。よかった・・間に合った。
よく見ると、バスストップの後ろに、おばあちゃんがひとり佇んでいた。どうも観光客には見えないし、地元のひとかなあ・・。とりあえず話しかけてみる。

わたし 「アヴィニョンゆきのバスって、ここから乗れますやんね?」
おばあちゃん 「わたしもそうおもうんやけど・・初めてきたんで、ようわかりませんのや(汗)」

どうやら、同じ観光客のようだ。おばあちゃんも、アヴィニョンのほうに戻りたいらしい。同志だ。ひとりで心細かったので、なんだかホッとする。
おばあちゃんも同じように感じてくれていたのか、やたら話しかけてきてくれた。
不思議なもので、言葉が理解できなくても、大げさなジェスチャーで会話(?)すると、なんとなくお互いの意思が通じ合えるものだ。
ポンデュガールがいかに素晴らしくて感動したかということを、お互いに身振り手振りで表現し、うんうんと納得し合っていた。

定刻から15分ほど遅れてバスがやってきた。
路線バスではあったが、2×2の4列シートで中が広く、車内はガラガラだった。
バスに乗り込むと、ホッとしたこともあってドッと疲れが出て睡魔が襲ってきた。
連日の寝不足も手伝い、ここからアヴィニョンまでは車内で眠りながら向かうこととなった。
おおよそ40分ほどの仮眠だった。



「にいさん、アヴィニョンに到着しましたで」というアナウンスで、「え?」という感じで起きる。
降車地は、ちょうどアヴィニョン中央駅の前だった。アヴィニョン中央駅は、アヴィニョンTGV駅とは違い、市街地のどまんなかだ。
とりあえず、いまのうちにTGV駅までの帰路を確認することにする。いつも帰る直前で慌てふためきなら探すので、少しは学習したのだ。
アヴィニョン中央駅とアヴィニョンTGV駅は、だいたい6〜7kmで、横浜駅から新横浜駅くらいといった距離だ。歩いていくにはちょっと遠い。
ただ難儀なのは、TGV駅はTGVしか止まらないので、電車でいく手段がない。バスかタクシーしか交通手段がないのだ。
簡単にタクシーを使えるほどの金銭的余裕はないので、バス停をひとつづつまわり、TGV駅行きの停留所を探す。あった。便も頻繁に出ている。
これで一安心♪というわけで、満を持して旧市街の敷地内に入った。市街地のまわりは城壁のようなものに囲まれているので、なんだか、”潜入した”って気分になる。





どこになにがあるのか、さっぱりわからないまま、メインストリートらしき道をてくてく歩く。
姉がすきそうなシャレオツな雑貨店が並んでいる。普段ならあまり興味を示さないが、ショーウインドウに飾ってある雑貨があまりにもかわいらしいので、都度、足が止まる。
さらにしばらく進むと、キオスクに近い売店のような店があった。表に新聞が並んでいる。ん?馬が一面に載っているぞ?
「ああああああああああああああああああ!凱旋門賞の記事が載った新聞が売っとうがな!!」
店先に置いてある、馬が一面の新聞を全てもぎ取るようにして、一目散にレジに向かう。嵩張った新聞各紙は明らかにお荷物になりそうだったが、そんなことはどうでもよかった。
むろん、どれも悔しい結果を報じたものだが、どうしても、凱旋門賞を報じた現地の新聞が欲しかった。まさか2日後のいまになってアヴィニョン(それも旧市街地)で手に入るとはおもわなかった。
早速、そのへんのベンチに座り、わからないなりに読む。いや、目を通す。
難しい(というかさっぱりわからん)フランス語の記事を眺めていたら、おなかが減ってきた。そういや、朝のTGVの軽食以来、まともになんも食べとらんなあ。
えっと、どこで食べよか。。
私は基本的に食には無頓着でこだわりがない。あたりを見渡したら、マクドナルドの看板があったので、そこに入った。
”ラッキー。マクドなら安く抑えられるかも。”
スイスのベルンに行ったときも、アメリカのロサンゼルスに行ったときも、マクドナルドは重宝した。ただ、スイスのベルンは物価に応じてそれなりに高かった。
「なにも海外まで来て、マクドはないやろ・・」とみなさんはお思いだろうが、こだわりがなければこんなもんで、淡泊なものである。



「ごつっ!」適当に頼んだおすすめセットは、思ったより量が多かった。
日本やスイスはもとより、アメリカのロサンゼルスよりもバーガーのサイズがでかかった。
隣の席には幼稚園児くらいの子供がおり、わたしがセットをコンデジで撮影してるようすを、母親と奇異なものをみるような目で眺めていた。
その子供に「ポテト(一本)やろか?」と差し出すと、飛び跳ねるようにやってきて、遠慮なしに全てもっていってしまった。
返してくれというのも大人げないので、救いを求めるような目で子供が食べる様子を眺めていると、「あげる」と言って数本差し出してくれた。
「メルシーありがとさん」と言いながら、数本のポテトを頭をかきながら頂いた。

マクドを出て、さらに奥に進むと、ストリートのど真ん中に忽然とド派手なメリーゴーランドが現れた。
な・・なんじゃこりゃ?と驚いたが、これが不思議なことに旧市街の町並みに溶け込んでいてさほど違和感がない。
しばらく眺めていると乳母車を連れたお客が現れ、窓口でお金を払って馬や馬車に乗り出した。
メリーゴーランドが、陽気な曲を流しながら回り出す。その曲がまた、この町並みにマッチしていた。





さらに奥に進むと広場に出て、そこから放射状に細い道が延びていた。
そのうちの一本を選び、アテもなく奥の方に進んでみる。





カメラを向けると、襲いかかるポーズを見せてくれる陽気なおっさん。





ぷっぷーっと、背後から音がして、なにかいな?とおもって振り向くと、狭い道路にギリギリの幅で進む、ミニ牽引バスだった。
おお!おいらも乗りたい!けど、どこから乗れるんかいな?





さらに進むと急に開けて、目の前にどでかいお城のような建物があらわれた。
「おお!ドラクエの城やあ!」
むろん、これはドラクエの城ではなく、教皇宮殿である。着いた当初、教皇宮殿とは何か・・はおろか、これがなんの建物かすらわからなかったので、”ドラクエの城”程度の認識しかなかった。
”行き当たりばっ旅”の場合、予備知識をあまり(・・というかほとんど)仕入れないので、帰国してから「行った場所はどんなところか」を知ることになる。
それはそれで、まあ楽しいのだが、今から思えば全く予備知識なく行くのは、歴史や文化に思いを馳せるきっかけを自ら放棄するようなもので、勿体ない気がしてならない。
これから海外に行かれる方は、最低限の予定は立てて、少しくらいは勉強していった方が絶対にいいような気がする。(反省)



教皇宮殿のまえでギターを奏でるおっちゃん。



広場を見渡してみると、さっき細道を走っていたミニ牽引バスが止まっていた。ラッキー♪あそこが乗り場なんかな?
行ってみると、ちょうど出発前でドアが半開きのまま止まっていた。ブルージュのボートと同じで人数が揃うまで待っているようだった。
さっそく乗り込んでみる。タダ?そんなわけないよな・・。すぐにボーイさんがすぐに料金を徴収に来た(^^;)
バスはあっという間に予定人数が埋まり、簡単なガイダンスのあと、ゆっくりと動き出した。



ちんたらちんたら・・
歩いた方が早いのではないかというくらいのスピードで、ミニ牽引バスは進む。
各座席にヘッドホンが備え付けてあり、名所案内はリモコンスイッチで多国語対応しているのだが、肝心の日本語がみつからない。
仕方がないので、iphoneの中に入っている、ドラクエIのラダトーム城のテーマを聞きながら、ゆっくり流れる景色を愉しむ。



あまりにも有名な、アヴィニョンと言えば・・のサン・ベネゼ橋。
しかし、これも勉強不足で、「とちゅうで途切れてて、けったいな橋やなあ」くらいの認識しかなかった。
バスは旧市街地を30分ほどかけてまわり、あっという間に時間が過ぎた。気がつけば、時計の針は4時半をまわっていた。
一日かけてポンデュガールからアヴィニョン旧市街を粗方回ったので、疲れがドッと押し寄せてきたこともあり、少し早めに駅に向かうことにした。
小走りで中央駅までもどったあと、事前にバスの乗り場を確認していたことも幸いして、すんなりとTGVの駅まで路線バスで帰ることができた。



TGV駅についたら、行きにポンデュガールへ送ってくれたタクシーが止まっていた。
おっちゃんはすぐに気づいてくれて、大きく手を振ってくれた。こちらも大きく手を振って返す。今日はありがとさん♪機会があれば、またくるね〜



南仏らしく、明るく開放感のあるアヴィニョンTGV駅構内。切符を早めに刻印して、わずかな時間にTGVを撮影しようと試みる。上り列車が一本撮れるかな?





あたりまえだが、構内に同志(撮り鉄)などいるわけがないので、駅員さんに予めTGVを撮影する旨を伝えておく。
そうしないと、ホームでカメラを構えているだけで、不審者におもわれるからだ。
地中海線のTGVは、長いものだと18両編成にも及ぶ。その大編成が猛スピードで駅を通過していく様は圧巻だった。
通過する列車を撮影したあと、18時4分発のTGV・6128号に乗車し、パリのリオン駅へ帰った。
乗車時間は行きと同じく2時間40分。行きにできなかったipadへのデータ移行し、食堂車(ビュッフェ)で軽食を食べているうちに、車窓は黄昏から夜景に変わり、
パリ・リオンに着いた頃はあたりは真っ暗だった。



リオン駅に着いた頃は疲労困憊で、とにかく早くホテルに帰りたかった。駅で撮り鉄・・という気持ちにすらならなかった。
さすがにこの日はどこにも寄り道することなく、地下鉄14号線→6号線と乗り継ぎ、モンパルナスからバスで帰った。
ホテルに着いたのは22時を少しまわったくらい。シャワーだけをさっと済ませて、カメラの電池ととipadを充電し、倒れるように爆睡・・

明日はちゃんとからだ動くんかいな・・?(>_<)


8日目につづく





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